マダコは不思議な生き物？海の知性が秘めた変化の力
深い海の岩陰に潜むタコ。
日本では食材としておなじみですが、その生き方を知ると誰もが驚きます。
実はマダコは、心臓が3つ、血が青く、体の一部が自分で考えるという超個性的な存在。
まるで海の中にひとりだけ別の進化をたどったような、不思議な生き物なのです。
このコラムでは、タコの体に隠された秘密から、科学者も唸る知性のしくみまで、
“地球の中の異星人”と呼ばれる理由を探っていきます。
青い血と三つの心臓――生命維持のマジック
タコの血が青いのは、ヘモシアニン（hemocyanin）というタンパク質のせいです。
人間の血が赤いのはヘモグロビンに鉄が含まれているためですが、
タコは代わりに銅を使って酸素を運びます。
酸素が結びつくと酸化銅になり、血液が青く見えるのです。
しかも、タコの体には3つの心臓があります。
2つの鰓（えら）心臓が酸素を取り込み、
1つの中央の心臓が全身に血液を送り出す。
ただし、泳ぐときには中央の心臓が止まり、体力の消耗を防ぎます。
このため、タコは歩くように静かに動くことを好みます。
海底をすべるように進むその姿は、まるで深海の忍者です。
「足が考える」――体中に広がる脳のネットワーク
タコの知性の中心は、頭の中だけではありません。
8本の腕それぞれに神経の塊（ミニ脳）があり、
全体の神経の6割以上が腕に集中しています。
つまり、タコの足は「自分で考えて動く」ことができるのです。
捕まえた獲物を腕が独立してさばいたり、
他の腕が別の作業をしていたり――その協調はほとんど自律神経的。
脳が指示を出さなくても、体が判断して動く。
まさに“分散型AI”のような仕組みです。
遺伝子の使い方を編集する？タコの自己改造能力
タコはDNAそのものを変えることはありませんが、
RNAを編集することで、体の機能を調整できることがわかっています。
これは「RNA編集」と呼ばれる仕組みで、
脳や神経の働きを環境に合わせて変化させることができます。
たとえば水温が下がると、タコはRNA編集によって
神経信号の伝わり方を変え、寒さでも動けるようにチューニングする。
いわば自分のプログラムを一部“書き換える”生き物。
この能力を持つのは、地球上でもごく限られた種です。
高い知能と、短すぎる一生
タコは記憶力や学習力にも優れています。
瓶のフタを開けてエサを取り出す、迷路を解く、他のタコの行動を見て学ぶ――
そんな実験結果が報告されています。
しかし、マダコの寿命はたった1〜2年ほど。
繁殖を終えたメスは卵を守り続け、孵化を見届けると力尽きます。
高い知性と引き換えに、短い命を選んだ生き方。
それが、タコの美学なのかもしれません。
海の中の変化の達人
タコは変装の名人でもあります。
皮膚の中の色素細胞を操って、海藻にも岩にも変身する。
敵から逃げるときは墨を吐き、海流にまぎれて姿を消す。
心臓を止め、体の色を変え、遺伝子の使い方まで変える――
タコは、まさに「変化することで生き延びる」生き物です。
変わることで生きるということ
タコの生き方は、人間社会にもどこか通じています。
状況に合わせて柔軟に変わること。
必要なときに休み、環境に応じて自分を調整すること。
それは現代を生きる私たちへの、小さなヒントでもあります。
もし海の底でタコに出会ったら、
それはただの軟体動物ではなく、
「変化することの意味」を静かに体現する存在なのです。
