ダチョウ

ダチョウは「裏切り」と「優しさ」が同居するサバンナの王者

世界最大の鳥に隠された、驚くべき社会ルール

アフリカの広大なサバンナを颯爽と駆けるダチョウ。
その堂々とした姿は、まるで恐竜の時代から時を超えてきたようです。
しかし、ダチョウの世界には「裏切り」と「優しさ」が入り混じる、ちょっとした人間ドラマがあるのをご存じでしょうか?

このコラムでは、最速の足を持ちながらも繊細な社会性を見せるダチョウたちの、意外な生態とそのしたたかな知恵を探っていきます。

世界最速の鳥、時速70kmのランナー

ダチョウは現存する鳥の中で最大の種。
体高は2.5メートル、体重は100キロを超えることもあります。
飛べないかわりに、走る力は抜群。長い脚で時速70kmものスピードを出すことができ、肉食獣に追われてもサバンナを風のように駆け抜けて逃げます。

そして、この脚はただ速いだけではありません。怒ったダチョウの蹴りは強烈で、ライオンの肋骨を折るほどの威力。普段は温厚でも、縄張りを荒らされると一変して暴走モンスターに。まさにサバンナ最強の逃げ足と攻撃力を兼ね備えた鳥なのです。

仲間の卵を外に押し出す?驚きの繁殖戦略

ダチョウのメスたちは繁殖期になると、ひとつの「共同の巣」に卵を産みます。
ところが、そこには厳しいヒエラルキーが存在します。
上位のメスは自分の卵を巣の中心に置き、他のメスの卵を外側へ押し出すのです。外に追いやられた卵は温度が下がり、孵化しにくくなります。

一見、仲間への裏切りのようにも見えますが、これは自分の子を生き残らせるための合理的な行動。厳しい自然界では、優しさだけでは種を守れません。

他の巣に卵をまぎれこませることも!?

さらに一部のメスは、他のメスの巣に自分の卵をこっそり紛れ込ませることもあります。
いわば托卵(たくらん)に近い行動です。とはいえ、完全に育児を押しつけるわけではありません。結果的に群れの中で卵を共有し、互いの子を守る形になることも。
利用と協力が曖昧に溶けあった、不思議な共生のかたちです。

群れで守る優しい社会

ダチョウ社会には、裏切りだけでなく温かい協力もあります。
孵化後のヒナたちは、群れ全体で守られます。
オスとメスが交代で卵を温め、天敵が来ればみんなで威嚇。
主メスが中心となり、複数のメスが協力して子育てを行う姿も見られます。
群れで育てるという選択が、過酷なサバンナで生き残る秘訣なのです。

ダチョウ社会はサバンナの人間劇場

裏切りながら助け合い、戦いながら守り合う。
ダチョウの社会は、私たち人間社会にどこか似ています。
合理と情、競争と協力――その間で揺れながら、彼らは生きているのです。

次に動物園でダチョウを見かけたら、ただの大きな鳥と思わずに、彼らの中に潜むしたたかな知恵と社会のルールを感じてみてください。
サバンナの風の中で、彼らもまた、生きるために選び続けているのです。

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